このページでは、中川研究室の研究方針に則した、卒業研究中間発表概要・卒業研究概要、および、作品集原稿(研究・制作)の書き方を解説します。
はじめに(引用のルールを徹底してください!)
卒論を書くにあたって魅力的な文章を書けるに越したことはありませんが、一番重要なことは自分の記述と他人の記述とを明確に区別して書くことです。つまり「引用のルール」を徹底することです。誰でもいきなりオリジナルなことを考えつくことは不可能です。むしろ先人、他人の知恵や努力と向き合うことで新たな知が生まれます。学術研究・制作の重要な点は、そういった他人の功績をリスペクトし、明確にしながら進めていくことです。また別の角度から言えば、論拠の不明な主張ほど説得力に欠けるものはありません。効果的に引用をおこない、先行事例を吟味し独自の視点で解釈・構成し、新たな価値や知識を生み出そうとする努力の結果が見えてくることが重要です。
【内容】
このページでは、以下の2点に関して説明します。
①卒業研究中間発表概要(中間審査会用; 10月提出)、および、卒業研究概要(審査会用; 1月提出)の書き方
②作品集原稿(研究・制作)の書き方
①卒業研究中間発表概要は中間審査会前(10月)に,②卒業研究概要は審査会前(1月)に提出します。いずれもフォーマットおよび書き方は同じですが、中間審査会用として10月に提出したものを、研究の進行に合わせて適宜更新し1月に審査会用として提出します。
*文章作成テクニックについて
卒論を書くにの役立つテクニックとして、パラグラフライティングがあります。
以下のリンク先にそのエッセンスの一部がわかりやすく説明されています(一部、問題文のリンクが切れてしまっていますが、それ以外の部分でもサッと理解できると思います)。
特に難しいことではないので、最初にこれを読んでから書き進めることをお薦めします。
冨永敦子、プロから学ぶ「わかりやすい文章の書き方」講座 Part2 パラグラフライティング
① 卒業研究中間発表概要(中間審査会用; 10月提出)、および、卒業研究概要(審査会用; 1月提出)の書き方
上記したように、卒業研究中間発表概要も、卒業研究概要も書き方は同じで、基本的に以下の4つの章と参考文献・引用画像で構成します。本研究に関する学会発表や展示発表を行った場合は、最後尾に「本研究・作品に関する業績」の項目を設けます。
- 背景
題目(テーマ)に用いたキーワードや関連する事項の説明を通して、本研究の目的やその意義につながる視点を構築します。つまり読み手が本研究について理解しやすい足場を作ります。 - 目的
背景を踏まえて、本研究に関する先行事例(作品や研究等)を3つ程度とりあげ、端的に解説します。それら先行事例と、自身が本研究で取り組む内容との差異を明らかにしながら研究目的を述べます(このことがオリジナリティの主張となる)。ここでは、先行事例はできるだけ自身が制作するものに近いものをピックアップするように心がけましょう。もし、全く同じような先行事例が存在する場合は、その時点で研究を遂行する価値は無くなってしまうため、研究目的を変更しなければならないでしょう。また、言い回しや構成上、研究目的を1章に書く場合もあります。その場合は、2章のタイトルを「関連研究」や「先行事例」等としてください。 - 制作
研究目的に適った制作方法について、適宜、図や表等を用いて端的に記述します。また、具体的に行なったことについて、実装画面やシステム図等を用いて書きます。卒業研究中間発表概要では、制作途上における本制作のコアとなる要素の試作について書きます。 - 考察(まとめ)
(中間審査会用;10月提出)試作段階を経ての考えを簡単にまとめ、今後の具体的な課題について記述します。3章を充実させて、この章を削っても構いません。
(審査会用;1月提出)12月に実施するオープンラボ展示時における体験者の行動を観察した時の気づき、体験者へのインタビュー内容とフィードバック等を整理したもの、実際に完成させて見えてきたこと・考えたことといった本制作を通して得られたものを総合して本研究・制作について記述します。具体的には、自身で目的をもって制作したものについて、(客観的に)体験者のフィードバックを用いて整理し、どういった体験が生まれ、それがどのような価値を持ち得たのか、または持ち得るのか(希望的観測)、について冷静に記述します。つまり、ただ単に「こういうのを作って完成しました。終わり。」ではなく、作ったからこそ分かったこと(発見できたこと)や、制作者以外の他人が体験することで明らかになったこと(フィードバック)を整理し考察することで、完成したものに意味を与えます(このような「作って理解する」ことを「構成的理解」と言います)。また、研究を通して浮上した新たな課題についても記述しましょう。そういった今後の課題は「展望」といった節を設けて記述します。
- 参考文献・引用画像
文中で引用した項目をリスト化して記載します。参考文献の書き方は学問分野や学会組織によって微妙に異なりますが、中川研では東京大学作成の「引用する・参考文献リストを作る(東大)」を参考にしています(ただし、東大資料は文献番号を囲むカッコの記号に「( )」を用いていますが、中川研は「[ ]」を使用しています(主にACM系やメディアアート関連の学会方式を採用))。インターネット文献と引用画像は、参照した日付も忘れずに書きましょう。必ずミスの無いように記述してください。ミスは剽窃と同等に扱われる場合があります。その場合は学位は取得不可となります。
参考文献・引用画像の記載例
- 本研究・作品に関する業績
学会や展覧会等で本研究に関する研究や作品を発表した場合は、その発表情報について記述します。
(構成上の注意点)
上記したように構成はとても単純です。ある程度のオリジナリティを確保して制作を行えば、誰でも書くことができます(ただし、当のオリジナリティと言えそうな要素を発見することが難しい場合が多く、それはある程度、制作を繰り返さなければ見えてきません)。そもそも論文は分野によって違いはありますが、形式がきまっているので、その質や評価は別として、書き方を学べば誰でも書けるものです。中川研の卒論は、情報工学や芸術分野の制作系論文の構成を参考に4章構成を採用しています(5章や6章構成でも良いんですが、シンプルに考えた方が制作に集中できるため4章構成を推奨しています)。実際書き進めるにあたっては、上にあげた4つの章の下に適宜、節や項を追加して読みやすく構成します。
各章のタイトル(背景・目的・制作・考察)は、基本的にはこのままでOKですが同じ意味の範囲で適宜アレンジしても構いません。例えば、「背景」を「研究背景」に、「制作」を作品名「〇〇〇」に、「考察」を「まとめ」等にしても問題ありません。
(文章の時制について)
時制については、以下のサイトに端的かつわかりやすく示してあります。1.イントロダクション、2.文献レビュー、3.材料および実験方法、4.結果、5.考察、の5つのブロックで説明されていますが、上記の中川研の4つの章で考えた時は、1.イントロダクション≒1.背景、2.文献レビュー≒2.目的、3.材料および実験方法≒3.制作、4.結果と5.考察≒4.考察(まとめ)に対応させて考えてもらえればOKです。
エディテージ x ユサコの論文執筆ヒント集「Vol.49:科学論文における時制の使い分け」
(よくある間違いに関して)
*章タイトルと節タイトルの間には文章は入れません。たまに入っているものもありますが、それは間違いです。
*文末のカッコによる説明書きや引用記号([1]など)は句点(。)の後ではなく前に配置します。
*章・節・項の記号は、それぞれ、第1章の場合は「 1 」(ドット無し)、第1章、第2節の場合は「 1.2 」、第3章、第2節、第3項の場合は「 3.2.3 」と表記します。*3期生までは第1章を「 1. 」(ドット有り)で記述しているものもありますが、4期生以降は、上記のルールで統一することにしました。
(仕様上の注意点)
仕様:原則として2ページ(両面印刷にてA4, 1枚)以内。最大4ページ(両面印刷にてA4、2枚)まで。
*2枚の場合は、ホッチキス留めにして提出してください。
(参考)卒業研究概要 実例 PDF
富石 鈴華「VRを用いたロトスコープ表現と実写映像の融合による新たなリアリティの検討」(2018年度 学科賞 受賞 / imd学生投票賞 受賞)
宮里 星二「パラレルなVR空間の相互作用に着目した脳波活用型ゲームの提案」(2018年度 imd学生投票賞 受賞)
薗部 健「XR (cross reality)体験に着目したオーディオビジュアル表現の可能性」(2019年度 学科賞 受賞 / imd学生投票賞 受賞)
川村 日智保「廃墟の美的体験について – オリジナル廃墟VRの構成を通して」(2020年度 学科賞 受賞 / imd学生投票賞 受賞)
② 作品集原稿(研究・制作)の書き方
(研究)作品集(卒業時に卒業生や研究室、および、学部関係者に配布)に収録されるため、ある程度の自由度が認められています。卒業研究概要を簡略化して図をうまく利用して構成しましょう。
(制作)作品集に収録されるため、ある程度の自由度が認められています。以下の実例を参考に、何をどのような目的で制作したかが伝わるように、魅力的な画像とシンプルな言葉で構成しましょう。
(仕様上の注意点)
仕様:配布されるAdobe Illustratorフォーマットを用います。詳細は卒業研究・制作概要で確認してください。
(参考)作品PDFファイル