Around the Mysterious Structure

Around the Mysterious Structure

岸江 浩太郎, 大城 佑樹, 小關 琴未, 中原 遥, 垣内 海渡, 望月 聡司, 中川 隆
(2020)

System Direction: 岸江 浩太郎
Interaction Design: 大城 佑樹, 小關 琴未, 岸江 浩太郎, 中原 遥, 垣内 海渡, 中川 隆
3D modeling: 中原 遥, 垣内 海渡
Sound design: 大城 佑樹
Graphic design: 小關 琴未
Preparatory study: 望月 聡司
Concept/Creative Direction: 中川 隆

 

本作は、ソーシャルVRが提供するクリエイティブなコミュニケーション空間について構成的に考察するプロジェクト「ASVRプロジェクト」の第1作目の作品です。ソーシャルVRプラットフォームの一つ「VRChat」のワールドとして制作/公開されているため、VRChatアカウントとVRChat対応のVR用HMD(VRHMD)、PCをお持ちの方はインターネットに接続して体験可能です。また、クロスプラットフォーム・ワールドとして制作されているため、PCベースのVRHMDだけでなく、スタンドアローン型VRHMD、Oculus Questでも体験可能です。

 

バーチャル空間デザインアワード「VRAA02(Virtual Reality Architecture Award)」投稿用ツイート

 

【作品ステートメント】

Ⅰ. フロンティア(辺境)とアート

1960年代後半、アメリカでは一部の現代美術家らによって、辺境の大地に自然の要素を用いた巨大な作品がいくつも制作されました。その動向は ランド・アート(Land art)やアースワーク(Earthworks)と呼ばれています。この動向の引き金の一端は、アメリカの商業主義的な芸術にまつわる「制度」への批判にありました。そういった批判は、具体的には美術館やギャラリーへの批判となり、この動向に関わった作家らは、表現の場や素材として美術館から遠く離れた「辺境」を選択し、その場にしか無く美術館に収蔵不可能な「自然そのもの」、「壮大なスケール」、「エントロピー」といった要素を重視した作品を制作しました。
しかし、そういった類の作品は実際に現場に観に行くことが困難です。そのため、大抵の作品は写真や映像に記録され、結局のところ批判の対象であった美術館やギャラリーで展示されることが多いことも事実です。

Ⅱ. Site / Non-Site

そういった実情において、この動向の最重要作家と言われるロバート・スミッソンは、辺境と展示空間とを繋ぐ新しい想像力(意味作用の回路)を見出し展開させました。スミッソンは、辺境の地とそこに構築したサイト・スペシフィック(設置される場の特性に準拠した)作品を「サイト(Site)」と呼び、また、Siteの要素(石や砂など)や写真、地図等とそれが展示される美術館等を「ノンサイト(Non-Site)」と呼んで、この二つの概念を弁証法的に統合(止揚)させたのです。
この捉え方において、Non-SiteはSiteの単なるコピーや記録ではなく、それぞれが作品の異なる「断片」であり、それらをダイナミックに繋げる表象作用として意味が生成されます。

Ⅲ. VR-Site

写真による表現が一般的なものとなり、インターネットが普及した現在は、作品鑑賞の事前/事後に様々なかたちで、作品の「断片」群と出会うことになりました。さらにそういったことを可能とするスマートフォンやSNS自体、今日的なNon-Site(ギャラリー)と言えるでしょう。つまり、スミッソンが発見した回路は、現在、作家や美術館以外のネットやデバイス、他人を媒介してより複雑化していると言えます。
そして、現在の辺境と言えるサイバースペース(そこを「VR-Site」と呼ぶことにします)と現実世界とを繋ぐVR以後の身体が生み出すリアリティは、既に新たな意味生成の回路をいくつも構成し始めているように思えます。
本作《Arround the Mysterious Structure(謎の構造物を巡って)》は、そういったVR-Siteによる新しい意味の回路を探るため、身体とVR-Siteとの関係が織り成す「そこ特有の生きている感覚(VR-Siteの場の特異性(Site-specificity)が生み出す「生きている感」)」の生成について考えながら制作しました。

Ⅳ. 実装と「生きている感」

この作品では、現在の辺境と言えるVRChat空間の中に、あえてSite的な場所(辺境)とSite的作品(アースワーク)=謎の構造物、およびNon-Site的空間(ギャラリー)とNon-Site的作品(写真やインスタレーション)を構築しました(ここではそれらをSite(VR)、Non-Site(VR)とします)(図3)。そして、そこにVRChatのサイト・スペシフィシティーの一つと言える「シュールな見る/見られる関係の発生」を意図したインタラクションを組み込でいます。

謎の構造物を巡る種々の体験(山頂への山登り、ヘリコプターや気球体験、ギャラリー鑑賞)は運動主体感の増幅によるリアルな「生きている感」の生成を意図しています。
また、所々仕組まれたギミックによって発生するシュールな体験(パーティクルによる間欠泉体験、誘拐、臨死体験、このワールドの編集室(VR-Siteと現実世界が交錯する場))は、超現実的な「生きている感」の生成を意図しています。

 

✴︎リファレンス

  • Robert Smithson (Author), Jack Flam (Editor), Robert Smithson: The Collected Writings. UNIVERSITY OF CALIFORNIA PRESS, 1996
  • 椹木野衣.反アート入門. 幻冬社,2010
  • ヴィデオを待ちながら : 映像、60年代から今日へ 〔展覧会図録〕. 東京国立近代美術館, 2009

 

図1. エントランス部. 作品体験についての簡単な説明を表記.

 

図2. プレゼンテーションルーム. 上記のステートメントを表記.

 

図3. イベントマッピング

 

図4. イベントマッピング(図3)の[e] Geysesr eruption(間欠泉).

 

図5. ワールド・ローンチサイト

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